書評『新聞記者』(望月衣歵塑子、角川新書、2017年)

モリカケ問題を始めとした総理・官邸を巡る疑惑を鋭く追求し続けている東京新聞記者、望月衣塑子さんの自伝的著作です。

本書を読む前から、彼女が菅官房長官を厳しく追求する様子を見て、如何にも野党っぽい(小林よしのり氏がよく言うところの)「純粋まっすぐ君」的な人物だなぁ、と言うのが私の印象でしたが、実際に本書を読んでみて、あぁ、本人も自覚した上で「純粋まっすぐ君」をやっているのだな、という感想を持ちました。

本書を読み進めて最初の彼女の取材姿勢に対する印象は「随分と偉そうな人だな」「貴方が信じていることが必ずしも正義とは限らないのでは」「なんでそんなに上から目線なのか」でした。

率直に言って身近に居たら、絶対に友達にはなりたく無いタイプです。

それでも敢えて彼女の本の書評を書こうと思ったのは、今、この国に漂う「危険な香り」を打ち破れるのは、こういう「空気を読まない」「忖度しない」「破天荒」で「非常識」な、「プライベートでは友達にしたくないような記者」しかいないだろう、と感じたからです。

私自身、モリカケ問題について、総理が指示して行われた不正だとは全く思っていません。恐らく総理を忖度した周囲の人々が勝手に行ったことでしょう。

勿論、総理にも、薄々それは知っていたであろうけれども意図的に止めなかった、という罪はあるかもしれませんが、この問題の本質は矢張り「忖度」が常態化している今のこの国の空気なのだと思います。

日本のマスコミが「ジャーナリズム」ではない、と一番感じるのは「記者クラブ」制度です。

「記者クラブ」とは、「公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される『取材・報道のための自主的な組織』」ですが、その結果として、「取材対象となる公的機関にとって都合の悪いジャーナリストは排除される」点にあります。つまり、ジャーナリズム界の「忖度機関」とでも言ったら良いでしょうか。

望月記者は菅官房長官への質問を、同じ記者仲間から制されたと本書で述べています。

記者クラブの常連メンバーと取材対象たる公的機関は、

・如何にして記者クラブの中に残り

・取材対象のお気に入りになることが出来るか、で、

・貴重な情報をリークして貰える

という「持ちつ持たれつの関係」です。

故に、望月記者のように、聞いて欲しくないことや答えにくい事、をズバズバと聞く記者は記者クラブには本来は入れませんし、入れば同じ記者仲間から「邪魔な存在」として排除されようとする圧力が掛かるのだろうと思います。

然し、こんな異常な状態が許されているのは先進国では日本くらいです。

官僚も人事権を官邸に握られ、メディアも記者クラブという組織を介して官邸に握られてしまったら、一体誰が官邸の疑惑に切り込めるのでしょう。

望月記者のようなジャーナリストばかりになってしまったら、それはそれで民主党政権のように国全体は迷走してしまうかもしれません。然し、少なくとも今のような「忖度」で凝り固まった空気の中では、彼女のように「王様の耳はロバの耳」だと言える人、ドン・キホーテのような人、が必要であろう、と本書を読んで感じました。