先ずは「長い間、大変ご苦労様でした。ゆっくりとご休憩ください」と安倍総理に申し上げたいと思います。
歴代最長政権でしたので、その政策には賛同出来るもの、出来ないもの、両方ありましたが、頻繁に交代して印象に残らない最近の総理に比べれば、「長期政権であった」という点だけを以っても評価されるべきだと私は思っています。
後任総理に継続頂きたいこと、改めてほしいこと、の願いを込めて、個別政策に対する個人的な評価を書き残しておきます。
【経済・金融:5点/10点満点】
「政治は結果が全て」と良く言われますが、最も結果が判り易いのは経済です。
安倍政権下で株価は大幅に回復し、雇用も安定したという事実は評価されるです。これは安倍政権の政策の結果ではなく、世界的な景気回復トレンドに乗っただけだという見方もありますが、世界の波に乗ることが出来たことは評価されるべきでしょう。政権によっては失政で並みに乗れないことは、決して少なくないのですから。
一方で、日銀の政策であるゼロ金利には今でも反対です(日銀は独立していると言われていますが、実際には官邸の意向が強く働いたのは明らか)。金利を下げれば企業が借り入れをして設備投資して経済が上向く、という発想は極めて安直で、そもそも資金ニーズが無ければ金利が下がったところで借り入れも増えません。
デフレ脱却も、結局達成されませんでした。「3本の矢」と言いつつ、結局「3本目の矢」が放たれることはありませんでした。
(注)「三本目の矢」=民間投資を惹起する成長戦略
総合的には、株価も上がり雇用も上向いたという数字面での実績はあったものの、抜本的な底上げには至らなかった、ということで、評価は10点満点の5点としました。
【軍事:7点/10点満点】
安全保障関連法案を成立させたことで集団的自衛権を行使出来るようになったことは、(左派からは厳しく批判されていますが)私は現実に沿った妥当な法改正だったと高く評価しています。
本来は憲法9条を改正して自衛隊を合法化するべきだとは思いますが、安全保障関連法案が成立したことで、実務的にはかなりの部分をカバー出来ているので、改憲はより議論を尽くした上で、国民的なコンセンサスを得られてからでも良いかと考えます。
唯一残念なのは米軍基地問題です。歴代の政権や政治家が長い年月をかけて漸く沖縄と合意した辺野古移転は、民主党鳩山政権によってふりだしに戻ってしまいました。
中国が海洋進出を拡大しつつある中、沖縄の米軍基地は日本のみならず東南アジア諸国にとっても重要な戦略バランスであり、その点について沖縄県民の理解が決して深まったとは言えないのは、今一歩、総理ご自身のこの問題への踏み込みが不足していたからのようにも感じます。
以上から、総合的には概ね合格の7点としました。
【企業統治改革:10点/10点満点】
余りマスコミは取り上げませんが、安倍政権で最大の功績の一つはここにあると私は見ています。
自民党と大企業は長年に亘る「持ちつ持たれつ」の関係であり、自民党は大企業の企業活動に資する政策を実現し、大企業は資金面で自民党を支えてきたことから、お互いに厳しい意見を言い合う関係にはありませんでした。
然し安倍政権になってから、政治が大企業にも厳しい要求を突きつけるようになりました。
企業経営に踏み込み過ぎという批判もありましたが、経団連に賃上げを要求したり、必ずしも浸透はしませんでしたがプレミアム・フライデーなどの働き方改革を後押ししたり、と、経団連も長期政権である安倍政権からの指示に耳を傾けるようになりました。
そして何より日本的な企業経営を突き崩し、取締役会や会長社長が単なる上がりのお神輿ポストではなく、株主や社外取締役からも監視され、何かあれば損害賠償請求対象にもなる、真の意味での経営者にシフトしつつあるのは、安倍政権の後押したがあったからだと思っています。
企業統治改革については満点としました。
【官僚統治:3点/10点満点】
かつて日本の重要政策は、実体的には国民から選ばれた政治家ではなく官僚が決めていました。官僚が決めたことを政治家が形式的に上書きしていたという方が正しいかもしれません。
民主党政権では官僚脱却を掲げましたが、実務は官僚の方が圧倒的に知識も経験もある以上、単に官僚を排除した政治主導は、単なる素人運転に他なりません。
安倍政権では、官僚の実務能力を活用しつつも、官僚主導ではなく政治主導にするウルトラCを繰り出しました。それが内閣人事局です。官僚にとって人事は全て。幹部人事を官邸に握られてしまっては、官邸の言いなりになる他ありません。
これが正常に機能していれば素晴らしい施策であったと思います。
然し現実には、総理や官邸が指示したとは私は思っていませんが、官邸に忖度した官僚が自ら文書の改ざんや情報の隠蔽、総理に近しい人物の優遇を行うようになってしまいました。
総理には「一切の忖度は不要」と言い切って欲しかったのが残念です。
方針は正しかったが運用がダメだったという意味で3点と辛口の点数としました。
【外交:5点/10点満点】
安倍総理最大の功績は外交だと言われています。実際、訪問した国数や交流したトップ数でみても歴代総理から突出して多いことは間違いありません。
然し、世界的には決して評価の高くないリーダーと異様なまでに親密感を演じてみたり、その割に肝心の政策は一歩も進まなかったり、と、外交的な成果は残念乍ら殆どなかったというのが実態だと思います。
トップ交流が進んであことで民間交流も進むと言われている日中関係ですら、中国公船が連日のように尖閣諸島周辺海域で威嚇行動を繰り返すなど、決して外交的には安定しているとは言い難い状況です。
プーチン大統領との交流も異常なまでに多かったですが、北方領土問題は進展するどころかロシア憲法の改正で寧ろ後退してしまいました。
北朝鮮とのパイプもなくなり、韓国との交流も細くなり(これは相手方の要因が大きいですが)、結局、朝鮮半島関連においても何ら進展はないどころか後退したのが実態です。
以上から、交流は深まるも実績は無し、ということで5点としました。
【総合評価:7点/10点満点】
マスコミなどのアンケートでは最低の1点と最高の10点に割れていることが多いようですが、反安倍・親安倍で語ってもあまり意味はありません。
私は安倍政権の通信簿総合点を、問題点も多かったけれども相応の実績があったことも認めて及第点の7点としました。