2022年上半期に放映されたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。
その余りにも崩壊した内容に、「ちむどんどん反省会」なるハッシュタグで批判が続出、当初は擁護していた各メディアも終盤になるにつれ、一斉に批判的な記事を載せ始めるなど、世間を大いに騒がせた朝ドラとなりました。
このドラマが何故ここまで批判されたのか、改めて振り返ってみたいと思います。
まずはヒロインとその家族が、視聴者にとって受け入れ難いレベルの人物像でした。
ヒロインは、何の当てもなく東京に出てきて、たまたま雨宿りした目の前が沖縄県人会長宅、そこでイタリアレストランを紹介して貰い、その後は偶然の偶然や周囲の人の謎の好意に助けられて成功し、自分の店を持つまでになります。
主役にも関わらず、努力や苦労する様子もほとんど描かれず、単なる気分屋で自己中心的なラッキーガールが出世していく物語では、感情移入のしようもありません。
ヒロインの兄は、何度も暴力沙汰を引き起こし、本土に出てきてからも詐欺行為を繰り返し、借金をしまくるも返済した様子はなし。さらに後日、子供のころに窃盗まで働いていたことも判明するなど、絵にかいたような「人間の屑」でした。
しかしそんなヒロインの兄を、窃盗しても叱らない父、詐欺行為に使われてしまうのにお金をつぎ込む母。
ヒロインの姉は、教師であるにも関わらず、子供たちから評価されず、結婚相手の実家とも揉め、そして不思議なくらいに地元産の野菜を使った給食に拘ってごり押し。
ヒロインの妹は、子供のころから病気で具合が悪くなるも原因不明、しかし仮病を使ってヒロインが好きだった幼馴染を無理やりヒロインの披露宴に連れ込む、歌など習ったことがないのに歌手になりたいと固執する。
ヒロインの夫は、結婚式の詳細まで決まっていた長年付き合った相手をいきなり振って、その足でヒロインに告白。女性の社会進出を記事に従っていたのに私生活ではヒロインに生活面を丸投げ。
こんな一家とは関わりたくない、と思わせるに十分な人たちでした。
さらにドラマで重要なのは視聴者に違和感を覚えさせないディテール設定ですが、このドラマは時空間が歪んでいました。
この当時の長距離電話代はとても高かったのに、頻繁に雑件で沖縄と東京で電話していたり、飛行機代とて安くないだろうにちょっとした理由で沖縄と東京を往復しています。
イタリアンレストランのある銀座、ヒロインたちが住む鶴見、お店を開く杉並、の間の距離も、ちょっと歩くと到着するレベルで描かれていました。
お金回りもかなり適当で、子供のころは一人東京に出さないと暮らしていけない設定だったのに、ヒロインが東京行きを辞めても子供たちは全員高校を出て、長女は大学まで卒業しているのに、お金の説明はなし。その後も、兄の借金が返済された様子はなく、ヒロインの独立開業資金もどう見ても無理があるけれども借金返済に苦しむ様子もほとんどなし。
これだけひどい脚本・演出だと登場人物のちょっとしたシーンにも批判が集まりました。
料理人なのに髪の毛バサバサのまま帽子を被っていること、包丁を持つ手つきが危ういこと、箸の持ち方が握り箸っぽかったり、パスタを食べる姿勢が犬食いだったり、といったところにも批判が殺到していました。
ヒロインの演技が一本調子で、悲しい顔が苦手だったり、「まさかや〜」「アキサミヨー」「ちむどんどんする!」がどれも同じトーンでしか話せていなかったのは、脚本・演出の酷さに輪を掛けて視聴者をイライラさせました。
そんな破綻したドラマでも最終回に向けて取り繕っていくのかと思いきや、どんどん異質な世界に突入していきました。
最終前週、いつもの突然の思い付きでヒロインが沖縄に戻ると宣言した際には、東京の店はどうするのか、矢作を始め応援してくれた方々にはどう説明するのか、と心配になりましたが、すべてナレーションですっ飛ばして送別会。
最終週、またもやいつもの思い付きで実家で店を開きたいと宣言するも、そこに唐突に母親の遺品を持った草刈さん登場、そして突然に開業日。理由もなく露出度が増えるのぼるちゃん。
最終話前日、またもや原因不明で妹が重篤も、最終話では兄弟が海に向かって叫んだら、タイムワープして老後。妹の病気も成功に至った努力も苦労もナレーションでサラッと説明したのみ。
普通のドラマでは描くべきところを全てカットしてしまいました。
何故にこのような脚本・演出にしてしまったのか、途中から聞こえて来ていたであろう世間の批評をどう受け止めていたのか、などの制作秘話を、いずれは製作陣に語って欲しいところです。
制作陣が料理には知見も興味も無いことを豪語して批判を受けたことがありましたが、料理人になるヒロインのドラマの制作者がそんなことを言えば炎上するのが当たり前なのに、何故あんな発言をしたのか、には興味があります。
脚本家の父親がモデルらしいヒロイン兄も、製作者はどういう思いを込めてあのようなキャラクターにしてしまったのか、父への尊敬なのか軽蔑なのか、も謎でした。
稀代の迷作、駄作「ちむどんどん」。
悪い意味で非常に記憶に残ったドラマでした。